現代思想 2015年2月号 特集=反知性主義と向き合う の感想

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タイトル現代思想 2015年2月号 特集=反知性主義と向き合う
発売日2015-01-26
製作者白井聡
販売元青土社
JANコード9784791712946
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例えば福島第一原発の事故に伴い表れた多くの議論のうち、福島にもう人は住めない、福島の農産物は食べてはいけない、福島で奇形児が増えている、と言った反原発を標榜する人々の主張のほとんどは科学的根拠を欠いており、彼らは、福島県でその主張に反論する科学的データについても、それは御用学者の捏造だ、御用メディアの世論誘導だ、はたまたアメリカの陰謀だといった主張を展開している。評者にとって彼らの主張は科学的検証とは無縁の、どのような科学的事実があろうととにかく反原発でなければならないとする宗教的な議論にしか見えない。まさにホフスタッターが定義した通りの、知的な人間を憎むという反知性主義的な振る舞いに他ならないと思う。
しかし本書で反知性主義の類型として捉えられているのは、つまるところ全て安倍政権のことであり、原発推進、集団的自衛権、秘密保護法、歴史修正主義、憲法改正、それらを支えるレイシスト、ネトウヨ的な支持層といった構造が政権基盤にあり、それが反知性主義で危険であるという前提が、ほとんどの執筆者にとって自明のものとして存在し、どのように知性の側がその反知性主義に向き合うべきかという問いから論を進める。だが安倍政権を反知性主義の政権と定義するステレオタイプへの懐疑はどこにもない。
評者にとっては、かつての民主党政権への発足時の圧倒的な支持は本書の執筆者の好みであろうリベラルな知性により得られた支持ではなく、結局のところ大衆の反自民党、反官僚のポヒュリズムと結託し政治的な手続きを蔑ろにした反知性主義的な政権ではなかっただろうか。言わば安倍政権に限らず政治にとって高い支持を得る戦略には反知性主義的な心性を含むしかないのであり、他の政権を無視して安倍政権を反知性主義的な政権だと規定することが有効なフレームワークとは考えづらい。本特集でもっぱら安倍政権のみの批判に紙幅が費やされることが不思議でならない。

 今号は「反知性主義とは何か」ではなく、「反知性主義と向き合う」が表題である。つまり寄稿者たちには「反知性主義」と(できれば)真っ向、対峙してほしいというのが編集サイドの切実なの意向であることが透けて見える。寄稿者たちは最前線へ送り込まれたわけだ。これを踏まえる必要がある。

 ところで、反知性主義に対抗する側は「知性主義」かといわれれば、それはあまりに荷が重く面映ゆいというのが真っ当な「知性」の持ち主だろう。となれば、反知性主義の対義語は必然的に「反・反知性主義」となる。「反知性主義」に向き合うに当たって、これ以外の解はないとこの号が予告された時点で思ってはいた。そして、巻頭の酒井隆論文がまさに『現代日本の「反・反知性主義」?』と題されている。酒井は自分が置かれた立場を正確に理解しつつも、「?」をつけることによって、いきなり戦場に送り込まれた困惑と疑念をはっきりと表明している。「反・反知性主義」にもはっきりとした違和感が示され、苦労して解きほぐそうとしていく。

特集の冒頭、酒井隆『現代日本の「反・反知性主義」?』だけでも読む価値があると思います。

酒井氏は、現代日本に広まるあらゆる差別の攻撃的な言語もまた(ある立場からはどれほど欺瞞と隠蔽と「無知」に満ちているように見えようとも)、ある種の「知的論戦」のような見かけをとっており、現代日本を特徴付けるものとして目立つのはむしろ「知性の(叛乱ならぬ)氾濫」の方にも見える、と指摘します。『にもかかわらず、こうした日本の状況が「反知性主義」としばしば形容されているのには、この名指し自体が、どこか、現代日本の状況そのものの映し絵のようにも見えてこないわけではない。』とも。

そして"「知性」を働かせるならば、「事実」を知るならば、そのような「邪悪な情熱」は必然的に解消する” / "それらのいわば「邪悪な情熱」が、<知性の反対の産物>であるというそれこそ「偏見」” こそが、むしろこの事態の一端を担っているのではないかと投げかけ、「知的な」排外主義やレイシズム、「戦後的なもの」への否定と、その気分としてのシニズムは、むしろ制度内外の知識人によって耕されてきたものであり、現代の知的雰囲気を、「反知性主義」と決めつけ、「群集化した大衆」に重ねる前に、市民社会に影響を与える有機的知識人たちの働き、ヘゲモニーの分析が必要であると論じているわけです。

この特集には"反知性主義=安倍政権と定義するステレオタイプへの懐疑はどこにもない”とか、"自分たちを疑問なく「知性」の側に置き、反対の陣営を「反知性」の側にいるとレッテルを貼り論を進めるアプローチ”といった批判があるようですが、この冒頭部の酒井の論考を踏まえた上で、(個別の論への賛否ではなく)この「特集:反知性主義と向き合う」そのものを「反知性主義のレッテルを貼る手法」だと喧伝することは、議論の矮小化ではないでしょうか。

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