イスラーム国の衝撃 (文春新書) の感想

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タイトルイスラーム国の衝撃 (文春新書)
発売日販売日未定
製作者池内 恵
販売元文藝春秋
JANコード9784166610136
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

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購入者の感想

イスラム国の成り立ち、内情やメデイア戦略など非常に参考になりました。ただ、歴史と現状分析中心で今後中東社会が安定化するためにはどのようなことがなされればならないかという点についての記述が少なかったです(難しいのかも)。また、政治や思想と経済との絡み合いも分析していただきたかったですし、、イスラエルとパレスチナの中東和平の問題も視野にいれなくてよいのか疑問に思いました。

現代イスラム思想研究者で中央公論やフォーサイトでアラブ情勢を紹介する著者が、イスラム国の成立や思想的な背景について解説する。なぜイスラム国がシリア・イラクにまたがる領域を支配する擬似国家になったのか。彼らが虐殺を正統化するイスラムの教義「ジハード」の考え方を論じている。コーランにある奴隷制肯定に正面から反論できないイスラム法学者たちに「宗教改革が求められる時期ではないか(p203)」と、批判的に記述するなど、冷静に過激派の思想を読み解いている。

現在はシリアを拠点にしているイスラム国だが、前身組織の起源はイラクにある。ルーツも古く、フセイン政権崩壊後に有力な反米武装勢力として台頭し、10年前から斬首殺人とネット公開を行ってきた。香田証生氏も殺害している。当初はアルカイダの分派を称し活動していたが、ヨルダン出身の指導者・ザルカウィが殺害された2006年以降は袂を分かち、イラク出身のバグダディを推戴しイラクに土着化した。さらに2011年のアラブの春で、アサド政権の支配が及ばないシリア北東部に浸透、戦略的後背地とした後、イラクに戻り、昨年6月にイラク第2の都市モスルを劇的に占領し「カリフ制国家」を宣言した。なお「イスラム国」「ISIL」「ISIS」など表記のぶれも、頻繁に呼称を変えた過去に由来することが説明されている。

イスラム国伸張の背景には、シリア・イラクでの宗派対立がある。シリアのアサド大統領一族はアラウィー派であり、スンナ派は冷遇されてきた。イラクは米国主導の新体制で、シーア派のマリキ政権が有力ポストをクルド人と独占し、スンナ派を排除した。また、米軍撤退後には、米軍が育てたスンナ派政府民兵への給与支払いもやめたため、両国ともスンナ派が不満を募らせていた。シリア内戦では、彼ら民兵らが米軍装備を手にシリアに侵入した。イスラム国が今後勢力を更に拡げることは難しいが、両国とも支配力が弱く、容易に消滅もしないだろうと著者は見ている。

当該分野では日本最高の(と勝手に思ってます)研究者でいらっしゃる池内先生の時宜を得た一般向け最新作です。先生が各所に発表された小文に基づいていると思われますが、ご自身が「むすび」に記されている通り、単にそれらの“まとめ”に留まらず、イスラム思想史・国際政治学の両面でのしっかりしたフレームワークに基づいた「骨のある」小品になっているように見えます。

本書の主題である「イスラーム国」の来歴は00年の9・11事件後に「グローバル・ジハード」を繰り広げたアル=カイーダにあると言います。米軍の「対テロ戦争」に追い詰められたアル=カイーダ中枢はアフガン・パキスタン国境に潜伏しますが、各地に地域名を冠して分散・分権的にテロ行為を行う関連組織が出現(池内先生の表現では「フランチャイズ化」)します。そのうちの一つが「イラクのアル=カイーダ」であり、03年のイラク戦争後の混乱に乗じて台頭したことが明らかにされます。
「イラクのアル=カイーダ」は06年10月に「アル=カイーダ」の名称を外し、「イラク・イスラーム国」になりますが、05年頃から「カリフ制国家」再興構想を持っていたようです。「イスラーム国」の勢力拡大の背景には、チュニジアから始まった「アラブの春」後の混乱による「統治されない空間」の拡大、エジプト等で見られた穏健イスラム主義政権の挫折、紛争の宗派主義化・地域化があったことが指摘されます。

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文藝春秋から発売された池内 恵のイスラーム国の衝撃 (文春新書)(JAN:9784166610136)の感想と評価
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