イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書) の感想

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タイトルイスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北 (集英社新書)
発売日2015-01-16
製作者内藤 正典
販売元集英社
JANコード9784087207705
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

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購入者の感想

著者は中東のエリアスタディや、西欧でのイスラム移民社会に知見が深い。イスラム国による日本人殺害事件や、その直前にあった仏新聞社テロ事件でも、メディアで解説している。事件自体は本書刊行直後だが、両事件を予期したかのように、欧州社会でその価値観を押し付けられ差別を受けても声を上げられず苦しみ、ルーツたるイスラムに深く帰依するムスリム移民の実態を伝える。

エルドアンやムルシーを支持する著者のスタンスは明確で、イスラム主義に強く賛同している。とりわけ、本書はトルコの外交姿勢を「同盟国である米国に追随しない」と高く評価している。まあ、ほかのイスラム国本(国枝「イスラム国の正体 (朝日新書)」など)を読むと、トルコのシリア政策の別の意図が読めるので、本書の見立てが一概に正しいとは思わないが。また、イスラム国への攻撃には「また第二のイスラム国が登場するだけ」であるのに、アサド政権には「樽爆弾攻撃は残虐であり、空軍力を叩くべきだ。アサド政権には正統性が一切ない」という説明もうーん。

本書で高く評価できるのは、第2章の欧州でのムスリム移民の疎外感に関する説明だ。欧州の移民が就職・居住で露骨に差別を受け不満を募らせてきたことなどを、著者は長年訴えてきた。あれだけユダヤ差別に厳しいドイツでも、ムスリムが公然と蔑視される環境であるのにも驚いた。私は過去の著者の本を読んで、「郷に入れば郷に従え」だと思っていたが、今回の新聞社テロ事件でようやく著者の危機感が伝わった気がした。順応しようとしても拒絶される。若いムスリムたちは欧州社会の排他性に怒り、ジハードに参加する。著者は、差別に鈍感であるにもかかわらず自分たちへの攻撃には敏感な欧州を強く批判する。

イスラム地域研究の専門家が、イスラム国の台頭に至る中東地域の混迷について、歴史、宗教、政治権力、世界のパワーバランス等様々な角度から分析、解説し、今後の日本の取るべきスタンスを提言している。
本書で著者は、
◆1979年のイラン・イスラム革命以降の米国の中東政策は失敗の連続であり、その原因は、イスラムに関する無知、先入観、偏見に根差した「イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)」にある。
◆ムスリムには、同じ唯一絶対神から啓示を受けた「啓典の民」であるキリスト教徒やユダヤ教徒に対する憎しみはなく、彼らの敵意は、歴史的に自分たちを力で支配してきた英仏などの欧州列強諸国、シオニズムに基づく領域民族国家イスラエル、対テロ戦争と称して多くの市民を犠牲にした米国という国家に向いたものである。
◆イスラム国が目指す国とは、イスラム主義に基づき、主権が国民ではなく神にあり、カリフにバイア(臣従の誓い)を立てれば世界中のどこにいても国民となれる国である。即ち、西欧発祥の主権が国民にある民族国家とは全く異質であり、共約不可能な存在である。
◆一方、中東のイスラム国家の多くは世俗主義的ムスリム政権であり、こうしたムスリム政権やサウジアラビアの王族は、西洋諸国と持ちつ持たれつで国家・政権を維持してきた経緯があり、イスラム主義を掲げるイスラム国のような存在は、彼らにとって最大の脅威と言える。
◆日本は無批判に米国に追随し、世界中のムスリムを敵に回すのではなく、中東で米国の最大の同盟国トルコが、長年の米国からの参戦要請を拒否している姿勢に学ぶべきである。
と述べている。
イスラム国は「国の体裁を整えた初めてのテロ組織」などと言われるが、イスラム国台頭の最大の意味は、本書でも語られているように、主権が国民になく、領土すらも必要としない、新たな国家形態が提示されたことはなのではないかと思う。産業革命時の英国に始まり、21世紀初頭において国家形態の普遍的なスタンダードとなりつつあるnation state(=民族国家)と共約不可能な国家形態の登場は、もしかすると、数百年というスパンでの歴史の転換の契機になるのかも知れない。

なぜ、中東では、戦争が繰り返され、イスラム国のような過激な集団が台頭するのか。
本書は、中東をめぐる近年の混乱の背景を、欧米による中東支配の歴史とイスラム教徒の
独特な思考回路を軸に、立体的にわかりやすく解説しています。
イスラム教徒が重んじる神の法と、近代国民国家の法の概念のすり合わせは決して容易ではないことや、また、そこに生じた摩擦を世俗の法律や武力で解決することは、決して効果的な解決にならないことなどがよく理解できます。集団的自衛権によってアメリカに追随する日本は今後、中東をめぐる混乱にどのように対処すべきなのか。本書は、長年、現代イスラム地域研究に取り組んできた学者が、イスラム教徒の生の声を拾い上げ、国際社会における多文化、多宗教の共生を訴える警世の書であるといえます。また同時に、中東をめぐる今日の混迷した状態を理解する上で、必読の書であると思います。

イスラム地域研究の専門家が、イスラム国の台頭に至る中東地域の混迷について、歴史、宗教、政治権力、世界のパワーバランス等様々な角度から分析、解説し、今後の日本の取るべきスタンスを提言している。
本書で著者は、
◆1979年のイラン・イスラム革命以降の米国の中東政策は失敗の連続であり、その原因は、イスラムに関する無知、先入観、偏見に根差した「イスラム・フォビア(イスラム嫌悪)」にある。
◆ムスリムには、同じ唯一絶対神から啓示を受けた「啓典の民」であるキリスト教徒やユダヤ教徒に対する憎しみはなく、彼らの敵意は、歴史的に自分たちを力で支配してきた英仏などの欧州列強諸国、シオニズムに基づく領域民族国家イスラエル、対テロ戦争と称して多くの市民を犠牲にした米国という国家に向いたものである。
◆イスラム国が目指す国とは、イスラム主義に基づき、主権が国民ではなく神にあり、カリフにバイア(臣従の誓い)を立てれば世界中のどこにいても国民となれる国である。即ち、西欧発祥の主権が国民にある民族国家とは全く異質であり、共約不可能な存在である。
◆一方、中東のイスラム国家の多くは世俗主義的ムスリム政権であり、こうしたムスリム政権やサウジアラビアの王族は、西洋諸国と持ちつ持たれつで国家・政権を維持してきた経緯があり、イスラム主義を掲げるイスラム国のような存在は、彼らにとって最大の脅威と言える。
◆日本は無批判に米国に追随し、世界中のムスリムを敵に回すのではなく、中東で米国の最大の同盟国トルコが、長年の米国からの参戦要請を拒否している姿勢に学ぶべきである。
と述べている。
イスラム国は「国の体裁を整えた初めてのテロ組織」などと言われるが、イスラム国台頭の本当の意味は、本書でも語られているように、主権が国民になく、領土すらも必要としない、新たな国家形態が提示されたことはなのではないかと思う。産業革命時の英国に始まり、21世紀初頭において国家形態の普遍的なスタンダードとなりつつあるnational state(=民族国家)と共約不可能な国家形態の登場は、もしかすると、数百年というスパンでの歴史の転換の契機になるのかも知れない。

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