Sherwood Anderson: Collected Stories: Winesburg, Ohio / The Triumph of the Egg / Horses and Men / Death in the Woods / Uncollected Stories (Library of America #235) の感想

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優れた作品を残し文学史的にも重要な位置を占めるはずなのに、不当にもいつのまにか時代に忘れられた一群の作家がいます。シャーウッド・アンダーソンもそんな作家の一人。彼をめぐる日本の翻訳事情はお寒いもので、現在気軽に入手できる作品といったら講談社文芸文庫の「ワインズバーグ・オハイオ」一作のみ、あとはいくつかのアンソロジーで短編が二、三読める程度です。もっとも事情は本国アメリカでも似たようなもので、アメリカ版文学の殿堂シリーズともいうべきこのライブラリー・アメリカ版に彼の作品集が登場したのがようやく昨年（2012年）になってというありさまです。
この巻には「Winesburg,Ohaio」「 The Triumph of the Egg」「 Horses and Men」「 Death in the Woods」、以上の代表的な短編集と死後に発表された短編が収録されています。
新作が発表されるたびに文壇ジャーナリズムをにぎわす日本の著名な作家や世界的に注目されている作家でも、数年経って読み返してみると違和感というか、なにか決定的な古臭さを感じてしまうのに、シャーウッド・アンダーソンの作品は古びるどころかますます輝きを放ち、一種の凄味さえ増して読み手に迫ってきます。一世紀ほどまえのアメリカの現実が、苦しい社会で生きる人々の息吹が、絶望が、希望の在り処が、いま目の前の出来事として切迫したリアリティーをともなって現れてくるのはなぜか？　
彼が、その冷徹にして暖かなまなざしを向けていたのは「時代」や「現代」ではなく、ひとびとが生きている「現在」、「現実」そのものだったのだと思います。だからこそ、その作品は時代や国境、言語の違いを越えてわたしたちに直接語りかけてくる。彼の作品には文学だけが可能な真実の力があります。
時代は彼を忘れるかもしれない。けれども文学の側は彼の名をけっして忘れない。シャーウッド・アンダーソンほどauthenticという形容詞が相応しい作家はいません。