モーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書) の感想

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タイトルモーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書)
発売日販売日未定
製作者小宮 正安
販売元講談社
JANコード9784062880961
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

モーツァルトの作品番号で有名なK。そのケッヘル番号に集約されるモーツァルト資料の収集・研究家であったケッヘルの人物像を、彼が生きた19世紀ハプスブルク帝国の政治、社会や文化と関連付けて明らかにした好著。

19世紀はハプスブルク帝国が進歩の趨勢に遅れて「二列目」の国家となった時代。特に前半はメッテルニヒの締めつけの下、政治には口をはさまず身辺のささやかな安逸に逃げ込むビーダーマイアーという生活様式、そして手弁当で趣味の悦楽に浸るディレッタント、つまり富裕なアマチュアが闊歩する時代。ケッヘルもその1人で、モーツァルト研究は彼の多彩な趣味活動の1つ。モーツァルトの実像を求めて楽譜等を収集し、その作品を系統立てる作業をとことん行うケッヘルがいなければ、19世紀のモーツァルトがワン・オブ・ゼムだった時代にモーツァルト像を伝える手がかりはなくなっていただろう。

しかし、後世の専門家、つまりプロはアマチュアの仕事を忘れ去るのが悲しい運命。結局、天才モーツァルトにつながるKだけが今に残る。

本書はまた、モーツァルト音楽受容の変遷、そして19世紀ハプスブルク帝国の内側を活写した優れ本でもある。

ケッヒェルの人となりやケッヒェル目録の成り立ちについて日本語で読めるものがこれまでになかったので、基礎知識を得るという意味で大変有益でした。モーツァルトに興味を持つ方にはおすすめです。
ただし、著者独特の歴史の見方があまりに二元論的図式を多用していて「素人にもわかりやすすぎる」のが気になりました(ケッヒェル対アインシュタインを「ディレッタント」対「専門家」と捉えたことなど。アインシュタインの問題点は、彼が専門家であったことではなく、印象論的な様式分析という物差しに頼ったことだとされています)。「とりあえず分かった気になる」というのは、知にとって実は不幸なことかもしれません。
もっとも違和感を感じたのは、モーツァルトとケッヒェルを「天才」対「凡庸」と捉える見方です。ケッヒェルが凡庸であったかなかったか以前に、作品目録を作るという営み自体がそもそも「地味」なのではないでしょうか。つまり、仮にモーツァルト級の天才がだれかの作品目録を手がけたとしても、それ自体はたいへん堅実で地味な作業の積み重ねでしかありえないでしょう。
ケッヒェル目録の成立過程という点では、ケッヒェルが既存のモーツァルトの作品目録の情報をどう消化したのか、具体的には例えばアンドレによる自筆譜目録での作曲年代をどこまで引き写し、どこは変更したのか、それはなぜか、といった点に踏み込んでほしかったです。そこにこそ彼の独自性が表れているはずなのです。まあそれは、小宮さんのお仕事というよりは、「専門」の音楽史学者の仕事なのでしょうが…。

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