源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820) の感想
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参照データ
タイトル | 源氏物語の時代―一条天皇と后たちのものがたり (朝日選書 820) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 山本 淳子 |
販売元 | 朝日新聞社 |
JANコード | 9784022599209 |
カテゴリ | 古典 » 日本の古典 » 古代・中世文学 » 源氏物語 |
購入者の感想
本書は、源氏物語成立史を縦糸に、紫式部が間近に見た天皇や后たち、藤原道長とその周辺の人々の姿を描き出したもの。各種の歴史資料や作品から、人間像を浮かび上がらせるその手法は見事で、専門外のものでも思わず引き込まれる魅力を備えている。また、宮廷女性の自立が一つの隠れた主題になっており、とくに父親道長への反発から劇的に成長していく一条天皇后・彰子についての記述からは、著者の共感が伝わってくる。さらに注目すべきなのは、簡潔かつ明晰でありながら、軟らかくリズムを備えたその文体で、研究者にしておくには惜しいほどの完成度である。文才と、冷静な中に情熱を秘めた観察眼。それは、おそらく紫式部にも通じ、紫式部への傾倒から身につけられたものでもあろう。こんな言い方が、著者の意に沿うかどうかは分からないが、これを機に文学史の語り部としての活動を続けてほしいものだと思う。四つ星としたのは、必ずや出るであろう次作に期待してのことで、十分、五つ星に値する。