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『サラリーマン、異世界で勇者になる。』
1章.サラリーマン、異世界で勇者になる。読者932 評価0 分岐1
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スピットファイア
17.08.17
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 気がつくと俺は、スーツのままどこかの部屋に立っていた。

 周囲は金色に輝く豪華な装飾が施された壁。床には赤いカーペットが敷かれ、天井には驚くほど大きなシャンデリア。

 そして、目の前には頭に王冠を乗せ、人生で一度も見たことが無いような豪華な椅子に腰掛けている初老の男性がいる。
 男は何かの説明をしているようだったが、それどころじゃない俺の耳にはほとんど入ってこなかった。

 その中で唯一耳に入ってきたのは、男は自らを王と名乗っていた、ことぐらいだ。

 途切れた記憶の以前には一体何があったっけなと、今からほんの少し前の記憶へと思考を巡らす。


 俺の記憶は、自宅へ向かっていつもの帰り道を歩いている途中でぷっつりと途絶えていた。だが、それ以外で特に変わったことは無かった。
 

 混乱する俺――山田太郎――を尻目に、自らを王と名乗る男は淡々と説明を続ける。

 「魔王グマは、この世界を征服しようと企んでいる。であるから、お主には勇者として魔王を倒してもらいたい。引き受けてくれるか?」

 魔王とか勇者とか、何がなんだか分からないが、とりあえずコクリと頷き肯定の意を表す。

 「おおっ!そうかそうか!では早速、旅に出てもらおう!……と、その前に言っておかなければならないことがある」

 王はそこまで言うと、わざとらしく一呼吸空ける。
 そして次の瞬間、あまりの事に混乱し、間抜けヅラになってしまっている俺をさらに混乱させる一言を吐いた。

 「この世界はお主が元々いた世界とは違う!お主を元いた世界からこちらの世界に召喚したのだ!」

 「あっ……、そうですか、はい」

 「ふむ、これだけのことを聞いて全く動じないとは……。流石、勇者として選ばれた男よ。その器もまた別格、という事か」

 本当は混乱して何を喋っていいのか分からなかっただけなんですが……、とは言わせない空気を醸し出す王。しかも『動じていない』とか、随分と好意的に取られているので尚更言いにくい。

 ………ちょっと待て。今言ったことが本当だとすると……。

 「つまりここって、異世界って事ですか?」

 俺はそう尋ねた。
 
 「そうだ!理解が早くて非常に助かる!……では聞こう!お主はどのような魔法が使えるのだ?そしてお主が持っている特殊能力は何だ?」

 うおおおおおお!夢の異世界キタコレ!ということは俺は勇者として、格好良い魔法だったり、必殺技だったりが出来るってことか!?
 けど、『どんな魔法が使えるのだ?』ってどういう事だ?
 考えていても埒があかないので聞いてみることにした。

 「魔法とか特殊能力って後から貰えるんじゃないんですか?俺、そういうファンタジーチックなもの、全く使えませんよ?」

 「……………え?」 

 素っ頓狂な声を上げる王。

 「……『え?』って、どういうことですか?」

 だが、王は答えない。

 「………さあ!行くのだ勇者よ!魔王を討ち取ってくるのだ!」

 「いや、あの、ちょっとまっt」

 質問する間もなく俺は両脇をいかつい兵士達に拘束され、強制的に外まで連れて行かれた。
 
 そして乱暴に外へ出された俺に、兵士の一人がこれまた乱暴に小さな袋を投げて寄越す。
 中身を確認すると『100ゴールド』と書かれた金色の貨幣のようなものが15枚。


 「ほら、これは王からお前へのプレゼントだ。この金で装備を整えるなり宿に泊まるなりするんだな。分かったらさっさと行け」

 そうして兵士は俺の後ろを指差す。その先には町が見えた。

 「………はい」
 
 俺はその町へ向かって、トボトボと歩き始めた。



 
 ―――魔法は使えないし、特殊能力もない。金は1500ゴールド(これが大金なのかは不明)だけ。

………だが、俺はくじけない!何故なら、俺の冒険は始まったばかりだからだ!(泣)


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筆者:スピットファイア  読者:351  評価:0  分岐:1

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ANTZ #0 - 17/08/17
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ファンタジーのお約束丸無視なところが逆に面白い。
どんなふうに物語が広がるかが楽しみ。

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