虜人日記 (ちくま学芸文庫) の感想

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タイトル虜人日記 (ちくま学芸文庫)
発売日販売日未定
製作者小松 真一
販売元筑摩書房
JANコード9784480088833
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

購入者の感想

終戦間際、著者はブタノール製造を任務とする文官としてフィリピンへ赴く。
そこで日本軍の敗退、ジャングルでの彷徨、そして終戦。投降とその後の捕虜
収容所での生活を体験する。事態のただ中に身を置きつつも、科学者としての
冷静な観察がなされ、余計な修飾を廃した稀有な記録が残されることになった。
本書を世間に知らしめた山本七平氏はその価値をこう紹介している。
「戦争と軍隊に密接してその渦中にありながら、冷静な批判的な目で、しかも
少しもジャーナリスティックにならず、すべてを淡々と簡潔、的確に記してい
る。これが、本書のもつ最高の価値であり、おそらく唯一無二の記録であろう
と思われる所以である。」
また山本氏は解説のなかで、投降後の捕虜収容所で、ジャングルを生き抜いた
屈強な男達が、いともた易く一握りの暴力団的グループの配下に組み込まれ、
コントロールされていく様を記した部分にふれ、現在の問題としてもなお生き
ているという。確かにその通りだろう。国民必読の書。

この日記の史実資料としての意義については、山本七平氏「日本はなぜ敗れるのか敗因21ケ条」に詳しいですが、当時の軍部の情報を多く持つ立場でありながら、民間人(軍属)として比較的利害関係のないポジションで冷静な観察ができている、といった点は確かに一読すれば窺い知ることができます。
本書の意義に限らず、その背景、分析などについては、「日本はなぜ敗れるのか」に余りに的確で詳しく考察されています。一方、個人的に感じたことは、極限状態での人間の実態はこうも惨めでむごいものか、ということでした。本書でも山口大佐という立派な将校の話(比人からの信用も絶大、信念の強い人であり、馬鹿な閣下の命令には決して服さず敬礼もしなかったという)が紹介されていますが、こうした人は本当に稀だったのでしょう。確かに生死を賭け、「最後の食料を他人に差し出せるか」といったぎりぎりの問いに、明確に答えられる自信は少なくとも今の僕にはありません。本書の語り口は淡々としているだけ、人間の「弱さ」というものをつくづく考えさせられます。
山本氏も書いていますが、こうした極限状態を生み出さない、といった努力がまず求められることであり、極限に近づくにつれ残された選択肢は狭く、恐ろしく辛いものになってしまう、ということを、本書を読むことによって痛感 = 追体験します。また、ぎりぎりの状態での自分の態度というものを想像し、その緊張感を普段の生活の中で意識することは、間違いなく通常の自分の生活態度や人間関係を見つめ直すひとつの視点になります。

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