蘭陵王 (文春文庫) の感想
参照データ
タイトル | 蘭陵王 (文春文庫) |
発売日 | 2012-03-09 |
製作者 | 田中 芳樹 |
販売元 | 文藝春秋 |
JANコード | 9784167830014 |
カテゴリ | 本 » ジャンル別 » 文学・評論 » 歴史・時代小説 |
購入者の感想
「歴史小説とは、魅力的な偶像を書くことにある」と、著者は別著で語っている。 史実でない部分を盛り込み、魅力的な人物像を描き出し、面白い「小説」へ昇華させている作品であると思う。 史実が知りたければ、研究書を読めばいいのであって、自分のような小説読みには、ひたすら嬉しい作品。
隋建国の少し前、新三国時代の一角、北斉の皇族である高長恭(蘭陵王)の悲運の一生を、徐月琴という道姑を見聞者として、北斉の勃興から滅亡までと絡めて描いた作品。顔が美し過ぎて威厳を欠くので仮面をつけて戦った蘭陵王という若者が実在し、その知武によって国の運命が左右されたとまで言われた時代があったことは、素直に驚く。
現代戦争の勝敗が兵器の優劣によって決定的に定まるのと同じように、当時は将の知と兵の勇によって勝敗が決していたのだろう。ただ自分を鍛えあげ、その力を目の前の敵にぶつける。そういった、現代には少ない一種の単純明快さが、人の心の奥底にある本質的なものをくすぐり、長く惹きつけて離さないのだと思う。
しかし、現代と変わらないこともある。自らの権勢を求めて国の行く末も考えず、ただ足の引っ張り合いをする者たちがいる。疑心暗鬼に駆られ讒訴し、無実のものを死に追いやるものがいる。このような事例を見るにつけ、歴史は繰り返す、という言葉を苦い思いと共に引用せざるを得ない。
蘭陵王は悲運の主人公であり、それは同情に値するものかも知れないが、良くも悪くも王でしかないとも感じた。皇帝が率先して政治を放棄し佞臣をはびこらせ、おそらくは民が苦しんでいる間も、自分たちが殺されないように息をひそめているだけだった。それは仕方のないことなのかも知れないが、正史には現れない、庶民たちの生活がどんな様子だったのかも知りたかった。
なお、この作品では徐月琴という元気な少女を蘭陵王の側においているが、これは悲運の物語を少しでも明るくする上で、とても役立っていると思う。
現代戦争の勝敗が兵器の優劣によって決定的に定まるのと同じように、当時は将の知と兵の勇によって勝敗が決していたのだろう。ただ自分を鍛えあげ、その力を目の前の敵にぶつける。そういった、現代には少ない一種の単純明快さが、人の心の奥底にある本質的なものをくすぐり、長く惹きつけて離さないのだと思う。
しかし、現代と変わらないこともある。自らの権勢を求めて国の行く末も考えず、ただ足の引っ張り合いをする者たちがいる。疑心暗鬼に駆られ讒訴し、無実のものを死に追いやるものがいる。このような事例を見るにつけ、歴史は繰り返す、という言葉を苦い思いと共に引用せざるを得ない。
蘭陵王は悲運の主人公であり、それは同情に値するものかも知れないが、良くも悪くも王でしかないとも感じた。皇帝が率先して政治を放棄し佞臣をはびこらせ、おそらくは民が苦しんでいる間も、自分たちが殺されないように息をひそめているだけだった。それは仕方のないことなのかも知れないが、正史には現れない、庶民たちの生活がどんな様子だったのかも知りたかった。
なお、この作品では徐月琴という元気な少女を蘭陵王の側においているが、これは悲運の物語を少しでも明るくする上で、とても役立っていると思う。