根をもつこと(上) (岩波文庫) の感想
参照データ
タイトル | 根をもつこと(上) (岩波文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | シモーヌ・ヴェイユ |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784003369029 |
カテゴリ | 人文・思想 » 哲学・思想 » 西洋思想 » 西洋哲学入門 |
購入者の感想
フランスの哲学者で、第二次世界大戦時に亡命先の英国で34歳という若さでなくなったヴェイユの代表作の一つです。上巻では人間の魂に必要なものは何かをリストアップし、そのなかでも特に著者が重要と考えている「根を持つこと」についての論が始まります。植物にとって根が養分を吸収する重要な役割を果たしているように、人間もなんらかの根を持たなければ魂が死んでしまう。そして根から無理やり引き剥がされた状態、つまり「根こぎ」の恐ろしい影響について上巻では詳しく論じていますが、その中心的話題は祖国の喪失です。フランスはナチスドイツに占領されフランス人は「根こぎ」の状態になりますが、ヴェイユはいかにしてフランス人の魂を回復させるべきかについて最後に述べています。ヴェイユの主張は、国の過去の栄光を愛国心の基盤にしてはならず、むしろ祖国に対する憐れみの心こそが祖国愛の基盤になるべきだということでした。全編通じてなのですが、ヴェイユの主張は人間の心の機微を深く理解できないと、かなり難解かもしれないと感じます。ただ本書のテーマは遠い過去の遠い国の話ではなく、たとえば2011年東日本大震災時の原発事故で、故郷から無理やり引き剥がされて「根こぎ」になってしまった人々をも連想させました。「根こぎ」という病は戦争中の国だけでなく、現代日本にも存在しているという認識のもと、彼女の分析や処方箋は非常に重要な示唆を提供してくれるのではないかと感じました。