日の名残り コレクターズ・エディション [SPE BEST] [DVD] の感想

古希に近くなった今、観終わって自身の過去を振り返り色々な思いが交錯しました。共有できるところがたくさんあって、40代の頃に観た時とはかなり印象が変わりました。
日本語の『日の名残り』のタイトルも気に入っています。

何よりもまず、ノーベル文学賞受賞が決まったばかりの原作者、カズオ・イシグロ氏が、映画の製作当時（1993年）、本作とその歴史的背景などについて語った貴重な「映像特典」が、このDVDにはあることに言及したい。

＊＊＊～＊～＊＊＊

主人のダーリントン卿に対しては、この上もなく忠実に働く執事であるスティーヴンスは、心の奥では愛しているミス・ケントンには、同僚以上の親密さをあらわそうとはしない。その態度に満たされぬ思いをしていたミス・ケントンは、かつての同僚であった男性、ベン氏に、好きでもないのにモーションをかけ、婚約までしてしまう。その報告をきいても、素っ気なく「おめでとう」と言うだけのスティーヴンスを見て、独り、号泣するミス・ケントン。ある英国の知人によれば、「英国紳士は、愛する女性に対して、こうまで、かたくなではない」という声も少なくない、という。

＊＊＊～＊～＊＊＊

原作者のカズオ・イシグロ氏自身は、本作の「二人」（スティーヴンスとミス・ケントン）の出会いと別れを、「誰にでもあるような、人生の選択と失敗にともなう、切ない記憶」として普遍化したのだと、物静かで控えめな英国アクセントで語る。
「あの時、ああすればよかったのに！」「なぜ、あの時、あんなことをしたのだろう？」などと後悔した体験は、誰にでもあるだろう、というわけだ。・・・確かに、振り返ってみれば、その通りだと、思い当たるのである。

救いは、「二人」が気を取り直して、それぞれの人生を新たに歩み始めるであろうことを、ラスト・シーンから推測できる点にある。

＊＊＊～＊～＊＊＊

原作小説の筋を踏まえ、「二人」（執事と同僚の女性）の男女関係に、貴族とその執事の主従関係が交差し、さらには、ナチス・ドイツの台頭する時代の暗雲たち込める、先行きの見えない状況下での政治問題が浮上するという、重層的な構成をなすこの映画は、文芸作品の映画化を、完璧におこなっているといってもよい出来栄えである。

＊＊＊～＊～＊＊＊