粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫) の感想

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タイトル粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫)
発売日販売日未定
製作者城山 三郎
販売元文藝春秋
JANコード9784167139186
カテゴリ »  » ジャンル別 » 文学・評論

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偶然テレビで見た城山三郎の対談に興味を持ち、初めて読んだ作品がこの本だった。しばらくまともに本を読んでいなかった私でも、すらすら読める文章に加え、深い内容を伴っている。日本にも、この世から姿を消してしまった後でさえも、存在感を残せる人が居たことを教えてもらった一冊。

石田が「個人的蓄財には全く関心がなかった」がごとき、まるで石田という人物を理解していない書評が載っていたので、こうした誤解が蔓延するのを防止するため、あえて書評を投稿する。

石田礼助は東京商科大学(現一橋大学)を卒業し、三井物産に入社した、今でいう超エリートだった。総合商社の雄といえば今では三菱商事だが、戦前は違った。三菱商事なぞ、戦前の三井物産のライバルでもなんでもなかったくらい三井物産は他を圧するがごとき大商社だった(ちなみに商社などという汚らわしい会社は持たないことを家訓としていた住友財閥は、貿易はすべて三井物産に委託していたのである、戦前は)。だから三井物産に入社することは東京商科大学生といえどもそう簡単には就職できなかったのである。当時の三井物産のプレゼンスはそんじょそこらの会社とは違ったという。「ミツイ、インザマーケット」という噂が広まったとたん、世界の大豆相場が乱高下を始めたというくらい、三井物産の市場支配力は高かったのである。

東京商科大学から超名門企業三井物産に就職した石田だったが、石田は物産の中でも異質な存在だった。常に「動くものが好き」と公言し、小豆でも大豆でも小麦でも鉄でも相場なら何でもやった。そして破竹の快進撃を続けた。石田がその名を歴史に残したのは、三井物産のシアトル支店長として第一次大戦のアメリカに赴任した時である。ドイツによる無制限潜水艦戦争宣言を知るや否や、世界中で無差別に輸送船が撃沈され船腹の相場が跳ね上がると予見した石田は、当時零細な一支店にすぎなかったアメリカの片田舎のシアトルから世界に号令を発する。「世界中の船という船を借り上げろ」「世界中の造船会社に船の製造注文をだせ」

この石田の相場は大当たりする。なにしろ三井物産全体の利益の多くを石田のシアトル支店が上げ続けたのだから。しかも撤退も見事だった。戦争の終了をいち早く予見し、船で相場を張るのを早めに手じまいしたのだから。

しかし、「エイブルマンはいないか」を合言葉に「俺が相手にする奴は仕事のできるやつだけだ」と社内で放言する石田を物産は冷遇する。石田は結局三井物産の社長にはなれないのである。そして石田は引退し、国府津に広大な山林を購入し「悠々自適」の隠居生活に入る。

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