刑法各論講義 第5版 の感想

はしがきを読むと、今回の改訂の特徴は、
(1)平成２３年６月刑法改正に対応
(2)最新判例を網羅
(3)罪数や他罪との関係を詳しく記述
という点です。旧版である４版と読み比べると、とくに(2)(3)が目につき、大幅な改訂を行ったこと（100頁ほど増加）が分かります。

そこで判例索引頁総数を調べると、４版では１７頁ですが、５版では２２頁に増えています。人気＆判例引用の多い山口・刑法各論２版と裁判例を比較すると、平成１９年は５件、２０年は６件を引用していますが、前田各論５版では１９年は４２件、２０年は３５件引用であり、最新判例の引用ではどちらが有益か明らかでしょう。

裁判例だけでなく、項目も幾つか追加されている点でも、魅力的です。例えば、工事発注者の責任など過失犯の具体的類型（８頁）や殺意の認定（１頁半）。司法試験や刑事裁判で必要な知識なのですが、他の各論本ではまず記述がありません。

なお、TYDE666さんのレビューだと「学説が大幅に削られた」とありますが、４版と５版を読み比べましたが、見当たりませんでした。はしがきには、「外国法や、学説の『沿革』などは出来る限り削った」と書いていましたが。

前田・刑法各論本の特徴は、二色刷、図表を多用して、各構成要件、学説・判例のポイントを分かり易く説明する点にあります。この意味で最も優れた本の１つですが、今回の改訂によって、より使える本になったと思います。