証言 戦後日本経済 政策形成の現場から の感想

ベストセラーとなるビジネス書は、たいてい現在の日本経済を分析するものである。たくさん売れる本であるためには、今後の経済見通しを明快に提供できるような書でなくてはならないということであろう。本書はそのようなものではないにも関わらず、「週刊東洋経済」という経済誌が選ぶ2005年のビジネス書の第３位に選ばれている。内容は、書名の通り戦後の日本経済を60年にわたって回顧したものであり、他のビジネス書とは異なる。つまり、これは日本の戦後の経済の変遷を見続けてきた著者の回顧録であり、歴史的価値が高い書である。歴史を目の当たりにしてきた者でなくしては正確に著し得ない事項を、これまた巧みな聞き手が上手に聞き出している。終戦直後の石炭の配給制という統制経済から、近年の構造改革路線にいたるまで、経済企画庁を中心にして、官庁でアナリストとして働いてきた者からの視点で、貴重な話がふんだんに盛り込まれている。統制経済から自由経済へと移行する過程での経済政策の運営は、なるほどと思わせる。最近の好況に関心を奪われている多くの人は、このような長い歴史の軌跡にふれて目を見開かされるであろう。所得倍増計画の策定、高度経済成長期、石油ショックの克服、８０年代の内需拡大策など、ひと通りおさえておきたい事項ばかりである。ただし、石油ショックは「それほど大きなものではなかっった」と述懐するなどのご愛敬の点もある。まじめなエコノミスト・経済学者、経済志望学生が蔵書とする価値はあろう。歴史の重みに耐えうる書であるが、口述記録であるので、読みやすさという点でもまったく問題がない。