怪しいシンドバッド (集英社文庫) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトル怪しいシンドバッド (集英社文庫)
発売日販売日未定
製作者高野 秀行
販売元集英社
JANコード9784087477603
カテゴリ » ジャンル別 » 文学・評論 » エッセー・随筆

購入者の感想

高野秀行氏の本はすでに数冊読んでいるが、どれも大変面白い。
所謂高野節満載で、それでいて観察力鋭く核心を突いた民俗学、文化人類学の書でもある。
彼は好奇心旺盛で行動力もあり、その地域の中に入って行くのが大変上手く誰とでも友達になれる才能がある。
そこで役立ったのが稀有の語学の才能ではないかと思う。
彼の父親が英語教師と言うのもあるかもしれないが、語学は元々得意だったようである。
英語、フランス語、スペイン語、中国語、タイ語、アフリカの土着の言語など多方面の言葉に精通している。
しかも短期間に習得しているのだから、その努力、才能たるや驚嘆に値する。
自分もかつて何回か海外旅行したが、現地の人と意思疎通の話が出来れば旅の楽しみは倍増する。
生来の人なつっこい性格、それに語学が加わり酒好きと言うこともあり深くその地に入って行く。
その彼が面白おかしく書いた本だから面白くないはずがない。
自分がシンドバッドになったつもりで高野シンドバッドの追体験をしているような気持にさせてくれる好著である。
自分は学校で教師をしていたが、学校には英語圏から英語助手が来る。
カナダから来た190cmくらいの大男と仲良くなってよく話をしたが、彼は日本語がほとんどできない。
ある時、bimboと言う単語の意味が自分の辞書にはなかったので尋ねたら、恥ずかしそうにパソコンの画面に
ローマ字でyarimanと書いてくれた。
日本に来て1年足らずの間にヤリマンと言う俗語を知っているのか。
日本女性の好奇心の旺盛さと積極性に驚いた。
外国人の男性の間ではヤリマンと言う言葉はポピュラーかもしれないとも思った。
そこでパソコンの画面にsurrender(まいった、降参した)と書いた。
世界に冠たるヤリマンに幸あれ。
こういう事からしても未知の他人との意思疎通は言葉は極めて重要だと痛感した。
高野秀行と言う博覧強記で稀有の語学の達人の書いた面白おかしい高野シンドバッドワールドを堪能したい人は是非読まれたし。

序盤、インドで身ぐるみはがされるシーンが印象的だ。ここで高野秀行という人の性質がちらりと見えるような気がする。
パスポートなど所持品全てを奪われたあとの「一文無しというのはスカーンと晴れた青空のようなもので…」というシーンなのだが、ここで青空を比喩に持ってきたのがスゴイ。
なにしろ場所はインド、ひとりぼっちで所持金ゼロ、もう少しで拉致されて殺されていたかもしれないのだ。普通の作家ならここで「一文無しとはまるで目の前に霧がたちこめたような状態だ…」とか「大きな壁に取り囲まれたような心境だった…」とか、なにかネガティブなものを持ち出して心情を表現するはず。
なのに、高野秀行はここでスカーンと晴れた青空をもってきた。
この人は決してここで無理して気丈に振舞っていたわけじゃなく、思考の根っこの部分があっけらかんとしているんだと思う。
ふつうの人間は、テロ多発地帯や伝染病のはびこるジャングルの存在を知ると、その危険さを考えて尻ごみする。自分に起こりうる最悪のケースを想像して恐怖する。面白い文章を書ける知的な人間ほど危険性を冷静に分析できるぶん、その傾向は強くなると思う。
でも高野秀行は違う。この人は知的でありながら、またこれから行く場所の危険さをよく知りながら「まあ多分どうにかなるだろう」と世界中どこでも行ってしまう。
いわゆる平和ボケともちょっと違う。戦場みたいなところで命をおびやかされるような経験を繰り返してきても、次もどうにかなるだろうと自然に考えることができる、強烈におめでたい…じゃなくて楽天的かつ前向きな思考回路の持ち主が高野秀行だ。
そんなところが、僕みたいに内向的で臆病な人間からしてみればとっても羨ましいのだ。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

怪しいシンドバッド (集英社文庫)

アマゾンで購入する
集英社から発売された高野 秀行の怪しいシンドバッド (集英社文庫)(JAN:9784087477603)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.