資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトル資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)
発売日2014-03-14
製作者水野 和夫
販売元集英社
JANコード9784087207323
カテゴリ経済学・経済事情 » 各国経済事情 » 日本 » 国際経済と日本

購入者の感想

たいへん明快で、今日の問題が分かりやすく整理されている。現代が人類史の上にどう位置づけられるか、そして、今日の新自由主義経済や「アベノミクス」をどう評価するか、という目前の問題についても重要な示唆を提供している。以下に要旨と、とくに考えさせられたことを整理してご参考に供したい。

1. 要旨
(1) 資本主義成立の前提条件
 16世紀以降、株式会社による資本主義が隆盛を極めたが、それは外部に広大な空間があってそこに利益に預からない多くの人びとが存在するという条件のもとに、中心の約15%の人びとが富を蓄積するシステムであった。しかし、アフリカまでが世界経済に組み込まれてきた今日、2割の先進国が8割の途上国を貧しくしたままで豊かさを享受することができなくなってきた(グローバリゼーション)。

(2) 「電子・金融」資本主義
 「地理的・物的空間」で実物を取引する経済で利潤を高めることができなくなった1990年代から、アメリカで「電子・金融空間」が創造された。金融で資本の利潤の極大化をめざすものである。1995年以降、日本やアジアで余っているお金が、アメリカの「電子・金融空間」に簡単に投資できるようになった。具体的にはインターネット・ブーム(ITバブル)が起き、次いで住宅ブームが起きた。その結果、1995年からリーマン・ショック前の2008年までの13年間に世界の「電子・金融空間」には100兆ドルものマネーが創出された。

(3)「資本のための資本主義」が民主主義を破壊する
 空間的な「周辺部」がなくなった資本主義を維持しようとすると、結果として国内の同胞を収奪対象とすることになる(新自由主義はまさしくそれをめざすものである)。このように国境の内側で格差を広げることを厭わない「資本のための資本主義」は、民主主義を破壊する。民主主義は価値観を共有する中間層の存在があってはじめて機能するのであり、多くの人の所得が減少した結果の中間層の没落は、民主主義の基盤を破壊することにほかならない。

(4)「アベノミクス」の量的緩和は役に立たない

 本書を読むと、個々別々には見えている現象の根幹的な趨勢が分ります。アメリカ、日本、新興国、EUについての各論もあり、アベノミクスが実効をあげえないことも説得力をもって論じられていますが、大枠はつぎのような感じでしょうか。

 長期的にみれば利子率≒資本利潤率。したがって超低金利が意味するのは、投資しても利益が上がらないということで、これは資本主義の危機を意味する。 どうして、現代において利潤率があがらないのかといえば、資本主義では空間的な「中心」が「周辺」を押さえつけて、資源を安価に入手して利益をあげる搾取的システムだったのに、もはや周辺がほとんどなくなり、まもなく新興国も食いつぶす。つまり、「地理的・物的空間」において周辺役割を押しつける未開拓地がもはやないからだ。

 利子率≒利潤率は1974年に低下し始めるが、それに対して、アメリカは、「地理的・物的空間」に代わって、ITと結びついた「電子・金融空間」という資本による仮想空間を創造し、そこで高利潤を手にする金融帝国をめざした。
 先進国の量的緩和とは、この空間の無限拡大の手段であった。それは株価を押しあげはするものの、実質経済に貢献しない。この「バブル清算型資本主義」のもと、バブルは3年に1度できては弾ける。「富者と銀行には国家社会主義で臨むが、中間層と貧者には新自由主義で臨む」。つまり、バブルの儲けは自分たちだけ、バブル崩壊の痛手はみんなで分かち合う。そこでは資本が主人で国家が使用人になっている。
 
 グローバル化とは、中心=北の先進国、周辺=南の途上国の二極化が国境を越えて、一国のなかで出現し、中間層が没落する。グロ-バル資本主義では「景気と所得の分離」がみられる。雇用なき経済成長をめざすことは、雇用を荒廃させ、民主的な資本の分配ができなくなくなり、民主主義の崩壊を招く。
 
 もはや機能しなくなったシステムを強化しようとすることは、終焉を加速させるだけである。つまり資本主義の前提である「成長」志向を脱却し、新たなシステムを模索すべきである。 現代は「長い16世紀」に比せられる歴史的転換期にある。

 著者は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト時代から、電子・金融取引
空間の(歴史経済学的な)意味を考察し続けた希少な賢者である。
 本書の論旨の骨格は、「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」に立脚している。
著者は、利子率を指標(図1)として、資本主義の構造変化を解明する。16世紀に利子率が
低下し限界状況に至ったとき、「地理的・物的空間の拡大」(帝国主義)により資本の増殖
を図った。20世紀末に利子率が低下したとき、「電子・金融空間の拡大」(グローバル経済)
により資本の増殖を図った。

 現在、グローバル経済が直面している限界状況は、
(1)資本の増殖のために塊集(収奪)対象とする辺境は、ほとんど残されていない。
(2)豊かになれる上限定員は15%程度である。以前は国家間格差であったが、新興国も辺境
 でなくなってきたので、国家の内側に辺境を生み出す(格差の拡大、中間層の没落)。
(3)それでも足りず、未来世代からの収奪をも起こしている(ツケの支払いは未来世代へ)。
(4)紙幣を増刷、増税と企業減税で資本の塊集をしても、投資先が少なくなっている。
(5)地球の資源は無限という前提で走っている。中国・インドなどの人口大過剰国まで近代化
 して資源多消費国にしている。当然、地球システム自体が崩壊へ向かう(イースター島に)。
 
 著者は自らを変人と呼び、その変人には資本主義終焉を告げる鐘の音がはっきりと聞こえる
と締めくくっている。日本人には「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響き」を連想させるだろう。
 著者の前向きな意見は、(1)資本主義の崩壊を加速させない。(2)今の赤字財政ペースでは、
あと4年くらいが限界だろう。(3)財政健全化する(国連分担金やODAの額も、分不相応では…)。
(4)猶予期間でポスト資本主義の社会を用意する。(5)ポスト資本主義の社会がどういう社会で
あるか不明である。衆智で模索すべきである。

ベルリンの壁崩壊以来、社会主義は負けて資本主義が正しいとの見方が有ったかと思いますが、オキュパイド・ウォール・ストリート以来、資本主義も限界が近いのではと、感覚的に感じるこの頃でした。
その感覚に対して、根拠を示して説明してくれました。

低金利の継続は、資本主義が行き着いた姿で有ると、歴史と対比して明確に説明してます。

資本主義が行き着いて、今後の日本、世界がどうなるか。説得性の高い根拠を示して、金融緩和は解決にならないと警笛を発してます。そして、非正規雇用が増えるなど中間層が没落する理由も明確に説明してます。

金融市場で投資をしている人、我々を取り巻く政治、生活がどうなるか、将来を洞察したい人にお薦めします。

日本の実質賃金の指数:20%近く減少 1997年117.3→2013年97.7。 (2000年を100として。第二章より)
日本の資産ゼロ世帯の割合:10倍増 1987年3.3%→2013年31% (第五章より)

中間層がこれほどまでに困窮しているのは景気変動のせいだろうか?
著者・水野和夫氏は、もっと根源的な理由をあげる。
13世紀に始まった「資本主義」が、その成立時点から抱えている矛盾が
21世紀に入り、ついに覆い隠しきれなくなったからなのだと。

日本だけでなく、アメリカから中国、新興国、EUまで
現代の各国・各地域の経済的な行き詰まりが
独特の「水野理論」で解剖されているのが本書。
各国の抱える諸問題がじつは一本の糸でつながっていることがよく分かる。

さらに言えば・・。
今までの水野和夫の本は分かる人に分かってもらえばいい、という「密教」だったと思う。
すでに2003年には、日本の長期デフレ化を予見する「100年デフレ」を刊行し、
そのなかで世界経済危機も、資本主義の限界もよく読めば指摘されていた。
そのことを踏まえて、今回の本を深読みすれば、資本主義の終焉がまじかに迫ってきていることを
多くの人に共有してもらうことが、日本を救うことにつながるという「強い意思」が根底に流れていると感じられる。

とくに資本が暴走するなかで危機に瀕する「民主主義」がかろうじて機能しているあいだに
資本を利するだけの「成長政略」から、多くの国民のための「生存戦略」に転換するべきだということ。
「ひとり一票」の時代から、資産保有力にあわせて政治的発言力の多寡が決まってしまう前に
方向転換が必要なのではないか。
そんな彼の焦りを、今までになく「分かりやすい」水野本に感じて、読み手としてもぞっとする。

振り返れば、小泉政権下の「好景気」時代にデフレの長期化の予見を相手にしなかった人々は数多くいた。
あのときに、水野の言葉に真摯に耳を傾けていれば、これほどの格差社会は生まれなかった。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

アマゾンで購入する
集英社から発売された水野 和夫の資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)(JAN:9784087207323)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.