ゲルマニア (集英社文庫) の感想
参照データ
タイトル | ゲルマニア (集英社文庫) |
発売日 | 2015-06-25 |
製作者 | ハラルト ギルバース |
販売元 | 集英社 |
JANコード | 9784087607062 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » ドイツ文学 |
購入者の感想
時代は1944年5月。舞台は戦時下のベルリン。かつては敏腕刑事だったオッペンハイマーは、ユダヤ人であるためにその職を失っている。彼が収容所送りにならずにすんでいるのは、ひとえに妻リザがアーリア人種だからだ。
ある日、彼はナチス親衛隊のフォーグラー大尉に呼び出され、目下ベルリンで起こっている連続猟奇殺人事件の捜査を託されることになる。ユダヤ人という立場にあるオッペンハイマーには捜査を拒む余地はない。彼が捜査を進める間にも、被害者は次々と数を増していく…。
私が敬愛する翻訳家・酒寄進一氏の手になるドイツミステリーと聞いただけで迷わず手にしました。ネレ・ノイハウス『深い疵』やフォン・シーラッハ『犯罪』といった小説の名翻訳家として知られる氏の手腕は今回もいかんなく発揮され、ドイツのあの苛烈な時代の空気を見事に日本語に移し替えてくれています。
国防軍と親衛隊の確執だの、親衛隊と突撃隊の対立だの、優れたアーリア人を育てる生命の泉だの、ナチスドイツの時代背景が史実に則って細かく描きこまれ、そしてそれが事件の捜査や真相に大きくかかわっていきます。この小説をきっかけにあの時代のドイツの歴史にさらに深く分け入ってみたいという気にさせられます。
ある日、彼はナチス親衛隊のフォーグラー大尉に呼び出され、目下ベルリンで起こっている連続猟奇殺人事件の捜査を託されることになる。ユダヤ人という立場にあるオッペンハイマーには捜査を拒む余地はない。彼が捜査を進める間にも、被害者は次々と数を増していく…。
私が敬愛する翻訳家・酒寄進一氏の手になるドイツミステリーと聞いただけで迷わず手にしました。ネレ・ノイハウス『深い疵』やフォン・シーラッハ『犯罪』といった小説の名翻訳家として知られる氏の手腕は今回もいかんなく発揮され、ドイツのあの苛烈な時代の空気を見事に日本語に移し替えてくれています。
国防軍と親衛隊の確執だの、親衛隊と突撃隊の対立だの、優れたアーリア人を育てる生命の泉だの、ナチスドイツの時代背景が史実に則って細かく描きこまれ、そしてそれが事件の捜査や真相に大きくかかわっていきます。この小説をきっかけにあの時代のドイツの歴史にさらに深く分け入ってみたいという気にさせられます。
<書かれた時代状況は創作ではありません。ベルリン市民が、あの戦争が辿った結末を知らないままに、一九四四年初夏の怒涛の日々をどのように生きたかを描きたかったからです。(著者あとがき)より>
この作品は上質のミステリでもあり、すぐれた戦争小説でもある。
建築家アルベルト・シュペーアの造った夢のような妄想都市「ゲルマニア」の模型を見て、「すばらしいぞ、シュペーア」とアドルフ・ヒトラーが囁く冒頭から、現実のベルリン市街が連合軍による連日の猛爆で破壊され瓦礫の山となっていく状況が詳細に描写される。その中でナチと空爆の恐怖に怯えながら生きていく人々と、ナチスドイツの圧政に覆われた日常の中では、殺人事件など小さな恐怖に思えるほどの時代の様相に圧倒されるのだ。
一九四四年、瓦礫の山と化したベルリン。空襲が続く中、ユダヤ人というだけで公職追放された元刑事オッペンハイマーは突然、SS大尉フォーグラーの命令で女性の死体の前に立たされる。<女の死体が損壊されている><女の下半身が第一次世界大戦の慰霊碑に向かって大きく両足を開いている>
フォーグラーはオッペンハイマーに殺人犯を捜しだせと命ずる。
何故ナチス親衛隊の将校が、非道にも人間とみなしていないユダヤ人元刑事に捜査を依頼しなければならないのか。
その背景にはナチスのプロパガンダにある<完璧な民族共同体には犯罪は存在しないはず>であり、戦時下で街中の死体の存在は日常茶飯事なことであったからだ。
さらにナチ党内部の複雑な機構と派閥闘争。
<ヒトラーの権力掌握後、国家と党機構の垣根は大幅に取り払われた。党の機関は次第に行政に口を出すようになった。><新設された国家保安部の下に親衛隊情報部(SD)、秘密国家警察(ゲシュタポ)、刑事警察が統合されていた。>
フォーグラーは親衛隊(SS)であり、他に国防軍、さらに突撃隊(SA)とすべての組織がヒトラーのお気にめすよう綱引きをしていたのだ。
この作品は上質のミステリでもあり、すぐれた戦争小説でもある。
建築家アルベルト・シュペーアの造った夢のような妄想都市「ゲルマニア」の模型を見て、「すばらしいぞ、シュペーア」とアドルフ・ヒトラーが囁く冒頭から、現実のベルリン市街が連合軍による連日の猛爆で破壊され瓦礫の山となっていく状況が詳細に描写される。その中でナチと空爆の恐怖に怯えながら生きていく人々と、ナチスドイツの圧政に覆われた日常の中では、殺人事件など小さな恐怖に思えるほどの時代の様相に圧倒されるのだ。
一九四四年、瓦礫の山と化したベルリン。空襲が続く中、ユダヤ人というだけで公職追放された元刑事オッペンハイマーは突然、SS大尉フォーグラーの命令で女性の死体の前に立たされる。<女の死体が損壊されている><女の下半身が第一次世界大戦の慰霊碑に向かって大きく両足を開いている>
フォーグラーはオッペンハイマーに殺人犯を捜しだせと命ずる。
何故ナチス親衛隊の将校が、非道にも人間とみなしていないユダヤ人元刑事に捜査を依頼しなければならないのか。
その背景にはナチスのプロパガンダにある<完璧な民族共同体には犯罪は存在しないはず>であり、戦時下で街中の死体の存在は日常茶飯事なことであったからだ。
さらにナチ党内部の複雑な機構と派閥闘争。
<ヒトラーの権力掌握後、国家と党機構の垣根は大幅に取り払われた。党の機関は次第に行政に口を出すようになった。><新設された国家保安部の下に親衛隊情報部(SD)、秘密国家警察(ゲシュタポ)、刑事警察が統合されていた。>
フォーグラーは親衛隊(SS)であり、他に国防軍、さらに突撃隊(SA)とすべての組織がヒトラーのお気にめすよう綱引きをしていたのだ。