「健康第一」は間違っている (筑摩選書) の感想

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タイトル「健康第一」は間違っている (筑摩選書)
発売日販売日未定
製作者名郷 直樹
販売元筑摩書房
JANコード9784480016058
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会学概論

購入者の感想

医師・日野原重明氏が105歳で亡くなろうというとき、聖路加国際病院院長の福井次矢氏が「経管栄養や胃ろうをしますか」と尋ねたところ、日野原氏がはっきりとそれを拒否されたという逸話があちこちで報じられた。まさか福井氏は、105歳の日野原氏にほんとうに胃ろう造設を提案したわけではないだろうし、日野原氏の答えは訊かれなくても決まっていただろう。おそらくは、日野原氏の最期を修飾するための、福井氏のマスコミ向けの作り話に違いない。万が一、本気で尋ねて、受け容れでもしていたら、日野原氏のこれまでの言行を覆すスキャンダルになってしまっただろう。日野原氏は、100歳を超えて医師として患者を診て、110歳まで講演の予定があるから死ねないと意気軒昂だった。そういう意味で、たんなる長寿ではなく、健康長寿の象徴的存在だった。

ここで紹介する名郷直樹の著書は、この健康とか長寿という世間が無条件で支持することに、ちょっと立ち止まって振り返ろうと呼びかけた問題提起の書である。延命治療はもちろん、「出生前診断は不要」と言い切り、健康が第一という価値観を捨てることを勧める。姥捨て山(『楢山節考』)にヒントを見出し、「死ぬことを前提とした医療を基盤とし、健康欲をコントロールし、生存欲にきりをつけていくような医療が重要になってくる」と提言する。
「頑張り過ぎの糖尿患者さんに向かって…もう少し食欲を解放し、健康欲を抑制しよう」と呼びかける。こう書くと、過激な医療否定の書のようだが、名郷直樹は知的ではあるが過激ではない。
医療者のために、根拠のある医学判断を下すためのEBMという手法を広めた名郷直樹が、医療の受け手に向かって、医者というものがしばしば根拠のない判断を下していることを警告し始めたのは、「後悔したくなければ医者のいいなりはやめなさい」(日本文芸社)を出版した2013年、比較的最近になってからである。おそらく出版社側の意向でタイトルだけは過激そうに見えるが、答えよりも考えることを大事にする姿勢は変わらない。その「考える」をもっとも丁寧に書いたのが本書である。

タイトルが「逆張り」な感じで面白そうだったので手に取ってみた。
昨今の行き過ぎた健康至上主義的傾向に対するアンチテーゼである。

生存曲線なるものがある。年齢毎にどれだけの人が生き残っているかをプロットしたグラフだ。
ひとつは現在のもの。もうひとつは明治、終戦直後、50年前、40年前・・・と時代別の生存曲線をプロットしたものだ。
このグラフをどう解釈すべきか、それが本書のキモである。
明治のころ、50才まで生き残っている人はわずか50%、70才になるまでには7割が死に、生き残るのは10人に3人だった。
それが今では80%から90%の人が70才を迎えている。この「長生き化」に医療の進歩が寄与しているのは間違いないだろう。
が、それだけ医療が進歩、充実した現代であっても、80才までには3割が、90才までに7割が死ぬ。
そして100才までに95%以上、ほぼすべての人が死ぬ。
つまり、あたりまえのことだが、人間は年をとっていつかは死ぬ。そしてそれがいつかも、わりとはっきり分かっている。
にもかかわらず、超高齢者にも「死なないための医療」を行っている。そのことの是非を本書は問うている。

この問題は、社会にとっては、医療費が無制限に増大するなか高齢者医療の負担をどうするのか、というお金の問題である。
だが、個人にとってはもっと切実だ。
結局、本書は「お前の死にどきはいつなんだ?」と問いかけているのである。

それは、著者が言うように、食欲、性欲、睡眠欲と並ぶ「長生きの欲」をがまんする、ということなのかもしれない。
しかし、長生きは欲しくて選びとったものではなく、もっともっと消極的で、ただ死が怖くて、恐怖から逃れているうちにいきついてしまった場所、という気もする。
その意味で、健康と長生きはたぶん違う。
長生きは結果に過ぎないが、健康は間違いなく今日一日を健やかに過ごすための大切な要素だ。
著者の主張には基本的に賛成。とはいえ、やはり生きている限りは今日本日の「健康」は「第一」だと思います。

 長寿社会を実現した日本だからこそ考えていかなければならないことがちりばめられています。
医療という「現場」から、著者の人生観まで感じられる内容の濃い一冊です。これまでもたくさんの健康本を読んできましたが、合点がいくことが多くありました。
 図やグラフが素人でもわかりやすく書かれてあり、質の高い研究成果を理解することができます。

 世の中には様々なバイアスが働いており、それを堂々と指摘できる著者のポリシーに感服です。

多少、引っ張るところがありますが、あっという間に読み終えます。

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筑摩書房から発売された名郷 直樹の「健康第一」は間違っている (筑摩選書)(JAN:9784480016058)の感想と評価
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