オンブラ・マイ・フ の感想

キャスリーン・バトルが、大草原で風を衣装に受けながら、伸びやかに歌うニッカ・ウィスキーのテレビCMが大評判になったのが1986年でした。その時歌われたヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」を含めたこのアルバムは翌1987年5月に発売され、クラシックの声楽曲としては異例の20万枚を記録しました。
タイトル曲は、リリコ・レジェーロの声質を持つソプラノのお手本のような情感溢れる歌唱です。
キャスリーン・バトルは、小柄で声量も大きくなく、技術にたよるというソプラノではありませんが、その透明で凛とした美しさを感じさせる声は万人に愛される特徴を持っています。
マルティーニの「愛のよろこび」のように有名な曲でもその清楚で可憐な歌声で表現されますと、また違って聞こえるから不思議です。

ロドリーゴの「ポプラの林へ行ってきた」では、コロラトューラ・ソプラノの魅力が存分に感じられます。スペイン民謡を元にした歌曲ですが、気品が感じられ厳かな感覚が伝わってくるようです。

カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」からの「イン・トゥルティーナ」は絶品です。ピアノ伴奏に乗せて、この曲の魅力を最大限に表現しています。絹糸のような細さと光沢をもった歌唱で、2分ほどの曲ですがもっと聴きたい、と思わせる魅力を内在しています。

ラフマニノフの「ヴォカリーズ」も彼女なればこそ、このような哀調を帯びたイメージを表現できるのだと思いました。母音唱法ですから、声の響きの美しさだけで勝負しなければいけません。声楽家の実力が明瞭に出てしまう選曲をラストに持ってくるのは自信の表れでしょう。0