エコー・メイカー の感想

交通事故で脳に損傷を受けた男マークは、かろうじて一命を取りとめた、だが、最愛の家族を認める能力だけを失っていた。姉カリンを本物そっくりの偽物であるといい始める。
そして、病床には謎の紙片が・・・。
主人公マークの受けた障害は、自分の周囲の人物を替え玉だと思い込んでしまうカプグラ症候群であった。しかしこれは単に個人のみに関わる病ではなく、特に本小説で重要なのは、主人公マークの病がその周りの人間たちに影響を与え、替え玉だと看做された人々自身にも、自分が模像なのではないかという考えが転移してしまうという点にある。つまりここではカプグラ症候群は、周囲の人間たちを巻き込んで変容させる集団的なプロセスとして推移するのである。脳と世界の奇妙な相克、自己不信と愛の不可思議、事故の真相が明かされたとき・・・何が起こる？
多様な糸を巧みに紡いだ秀逸なる筆致は読ませます。お薦め！
アメリカ現代文学を代表する作家リチャード・パワーズの全米図書賞受賞作に納得。