文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫) の感想

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参照データ

タイトル文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)
発売日販売日未定
製作者ジャレド ダイアモンド
販売元草思社
JANコード9784794219787
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 生物・バイオテクノロジー » サル・人類学

購入者の感想

人間の性のあり方がいかに他の動物とかけ離れているかを枕に、
それらの特徴がどのように進化してきたのかを追う本です。
ざっくり言うと女性の閉経や排卵の隠蔽、夫婦の関係など、いずれも
遺伝子を残すのに有利だったからこそ進化してきたという感じ。
他の類人猿の動物との比較から進化の道筋を推定するくだりなども非常に興味深いです。

男女の考え方や反応の違いに、動物としてのオスとメスの戦略の違いが反映されているとすると面白いです。
地域による文化の違いも遺伝子を残すことを目的としてゲーム理論的な分析が出来そうな気がしました。
ただ全般的には今一般化している生理学的特徴は、過去においてたまたまそのような遺伝子を持った人が
自分の遺伝子を残しやすかったという結果の反映でしかないようにも思えます。
この本の表現では各個体が意思を持って戦略的に動いているように見えるところもありますが
実際は遺伝子を多く残せる特長を持った個体が自身の遺伝子を多く残すことで
その方向に進化していくのかな、と理解しました。

これを書いたのが「銃・病原菌・鉄」の著者だとは読むまで気付きませんでした。
同書は読んでいませんでしたが、この本を読む限りサイエンスライターとして見事な仕事をしています。
他の本もぜひ一度読んでみたいと思わされました。

気になるテーマを正面から扱った本です。原著が1997年に出版された際に、翻訳者が米国から取り寄せようとしたら、ポルノ扱いされて通関できないから送れないという返事が届いたことがあったそうです。今回の文庫化にあたって、直訳だった日本語タイトルを変更したそうで、おかげで若い女性店員が立っている本屋のレジでも気兼ねせず買えました。

説明などしてもらう必要はない、そんなの気持ちいいからに決まっているだろう、という途中でだんだんこみ上げてくる読者の気持ちを見透かして冷静に制しながら、著者は人間の性が他の動物と比べてどれだけ特殊なものか、それがどのような事情によって進化してそうなったのか、自身の推論も交えながら科学的に丹念に解説していきます。

発情期でもないのに、いつもやりたがる生き物は大変めずらしいそうです。ほとんどは女性が妊娠できない期間なのですから、それは確率的に考えると明らかに効率が悪いのです。なのに、人間の女性は、ヒヒの雌のようにタイミングが来れば自然にお尻が赤くなって独特のにおいを振りまいて時期を教える、ということはありません。また、人間は普通大勢の前で交尾をしません(あくまでも一般的には)。しかも、ライオンや狼やチンパンジーといった最も社会的な哺乳類ですらつがいにはならないのに、人は違います。奇妙なのは、われわれ人間の方なのです。

なぜそうなったのでしょう?また、一般的に寿命に比べて女性の閉経が早いのはなぜなのでしょう?そもそも、男は精子を提供する以外にどうして必要なのでしょう?なぜマッチョな男や美人に惹かれるのでしょう?日常の会話では避けた方が無難ですが、お酒を飲んだ席とかであれば使えそうなネタもいろいろ書かれてあります。仮説どまりのことも多いので全てが正しいかどうかはわかりませんが、なかなか興味深い内容です。ちなみに、仮説もそれを唱える学者の性別を反映したものになりがちだそうで、人間が排卵を隠すようになっている理由についてのそれぞれの代表的な仮説は、人によって主張の根拠がまったく反対の意味になっていて面白いです。

 ジャレド・ダイアモンドは、名著『銃・病原菌・鉄』でもそうだが、新しい事実の大発見を書いているから偉いのではないと思う。そうではなく、これまで様々な研究者が積み上げてきた個別の研究を、綜合して見せるやり方がすごいのである。
 読者はまず、その問題が興味深い問題であると十分に納得させられる。そのうえで、読者は、ダイアモンドが持ち出してくるいろいろな知見に導かれて、興味深い結論へ連れて行かれる。さらに読者は、その結論から、新しい興味深い問題が出てくるのを納得させられるのである。
 たとえば、第3章の「なぜ男は授乳しないのか?」は、本書のハイライトである「セックスはなぜ楽しいか?」(第4章)より、はるかに瑣末でつまらない問いに見えるが、決してそうではない。ダイアモンドは、ウシやヤギやテンジクネズミの事例を持ち出したり、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモンとそのレセプターの仕組みを解説したりして、「乳を出せない」という生理学的な制約をヒト男性が持っているわけではないことを力説する。ちょっとした突然変異によって、男性は授乳できる身体を持てる。なぜ授乳するのが男性ではなく女性なのか。「女性から乳が出るから」と言った単純な答えはもはや通用しない。だからこそ、「なぜ男は授乳しないのか?」は、進化生物学による究極要因の説明を求めるような、興味深い問題なのである。

 本書全体を通じて、ダイアモンドが基調としている主張はこうだろう――人間の性は、他の生物と違って確かにえらく奇妙なのだが、人間も他の生物と同じように自然淘汰によって進化してきたのであって、人間が特別なわけではない。だから、「人間の性はなぜ奇妙に進化したのか」という問題は、とってもおもしろいのだ。
 訳者の長谷川寿一も、本書の解説で、シェンダー論やフェミニズムがしばしば陥る「種差別」に警鐘を鳴らしている。「人間も動物である」が根本なのだ、と。そのとおりだと思う。その視点に欠けたジェンダー論やフェミニズムはゴミにしかならない。

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