蜘蛛女のキス (集英社文庫) の感想

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参照データ

タイトル蜘蛛女のキス (集英社文庫)
発売日2011-05-20
製作者マヌエル・プイグ
販売元集英社
JANコード9784087606232
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » スペイン文学

購入者の感想

この本をはじめて読んだのはもう20年近く前になります。
それ以来、数年ごとに読み返す宝のような本です。
挿入される映画の題材がまた秀逸。

ラテンアメリカ文学というのは、土着的で民俗的で神秘的要素があって、同時代のノーベル賞作家ガルシアマルケスなどけっこう読みづらいのですが、プイグは彼らとはまるで違う小説家。
映画オタクともいえる映画の知識がこの作家の根底を作っていて、彼自身の実体験である映画への愛情、同性愛者としてのマイノリティの哀しみ、軍事国家の政治的恐怖が行間から浮かび上がってきます。稀有な作家でした(エイズで既に没)。

国名は明かされませんが、アルゼンチン、多分プエノスアイレスが舞台。
若き革命家でブルジョア出身の青年バランティンとホモセクシュアルの中年男モリーナの監獄での会話物語。
主軸は彼らの会話と、ホモセクシュアルのモリーナが語る映画の話。
閉ざされた中で語られるモリーナの映画のストーリーは、その語りの上手さも相まって映像がそのまま目の前に広がるよう。
甦るゾンビ女(この邦題すばらしい!)、ナチ宣伝映画、黒豹女(ナスターシャキンスキー版のリメイクではないオリジナル版、多分)、etc.。どれもこれもいわゆる名作映画とは違いますが、その限りないB級感がまた哀しみと切なさを倍加させて、つかの間の現実逃避としての夢物語の様相を呈していきます。モリーナが告白する場末の安っぽい片思い話も、愚かさ故にいとおしい。

政治的であることを拒否するモリーナと、政治的に生きることを命題として自らに課しているバランティンが徐々に心を許しあう過程は、同性愛とか異性愛とかを越えて、あまりに純粋であまりに刹那的で、これこそが究極の恋愛なんだろうなと心から感じ入ってしまいます。
バランティンが語る国を思う革命思想も禁欲も、監獄の中でモリーナが彼のために差し出す1さじミルクペーストや一杯の紅茶に比べたら霞んでしまう。モリーナの見返りを求めない尽くし方が身につまされます。
限りなく軽くて重い小説、こんな本を書けるのもプイグ自身の転々とした亡命生活が生み出した思想的なものがあるのでしょうか。

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