漱石の漢詩を読む の感想
参照データ
タイトル | 漱石の漢詩を読む |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 古井 由吉 |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784000237215 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 作家研究 |
購入者の感想
吉川幸次郎氏の「漱石詩注」が純然たる訓詁の学であるのに対し、古井氏の本書はそれを踏まえつつ漱石の小説作品(特に「明暗」)やエセー(「思い出す事など」)と関連させながら漢詩創造のプロセスに迫った論である。読んでいて感じるのは漢文・漢詩文を自由にあやつることのできた過去の知識人たちがどれだけ豊かなものを抱えていたかということであり、またそれを失いつつある(既に失っている)現在の日本語に対して古井氏が抱く深刻な危機意識である。漱石の「則天去私」がどれだけ屈曲に満ちたものであるかが漱石の漢詩を通じて見えてくる。遺作「明暗」を執筆しつつ漢詩創作を続けていた漱石の死の床につくまえにものした最後の文学的表現が漢詩であったことは何を意味するのか?漱石文学だけでなく現代日本語の内包する危機について深い洞察に満ちた書である。