ことばの発達の謎を解く (ちくまプリマー新書) の感想

子供がどのようにことばを習得しているのか、という本当は難しい話を、平易なことばで
やさしく解説してくれる本です。
全編を通じて、筆者の、子供や人間や科学発展に対する深い愛情が伝わってきます。
本当に一流の人は、素人にはやさしいことばで伝えてくれようとするものだな、と好感を
もちました。
ホテルのコンソメスープのように透明でさらっと美味しく飲めますが、実は上等の材料で
つくられていて、見た目よりもずっと中身が濃いです。

単なる観察でも思い込みでもなく、純粋に科学的な見地から、子供は頭の中でいったい
何をしているのかを教えてくれる点が、いわゆる育児書とは違います。
これを読んで、人というのは（どんな子供でも）なんと賢いのか！ことばを学ぶために
どれほど優れた推論をしているのか、ということに気づかされました。
小さなお子さんがことばを覚えていく姿に興味をもっている親御さんにはお勧めです。

また外国語習得に苦労している自分自身（笑）を含めた多くの日本人にとっても、
いったい何が子供がしていることと違うのか、第二言語習得はなぜこんなに難しいのか、
を気づかせてくれる本でもあります。
様々な言語間で、1対1で単語が対応しているわけではない、という当たり前の、
でも認識するのが難しい事実を、あらためて明快に突きつけられる感じです。。。
そういう意味では、高校生の方に一番お勧めの本かもしれません。

言語学を学んでいる方にとっては、重箱の隅に入りがちな学問の世界から、周りを
見渡して総合的に言うと何が言えるのか、自分の研究が他の人の研究と合わせた
時にどう言えるのか、広い意味での学問の役割等について、ちょっと振りかえらせて
くれる本なのかな、とも思います。

そんなわけで、本当の良書というのはこういう本を言うんだろうな、と思います。
私は、子供が生まれたばかりの友人と、同じく外国語習得に苦労している友人に
プレゼントすることにしました。