われらの時代・男だけの世界 (新潮文庫―ヘミングウェイ全短編) の感想

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新潮文庫版のヘミングウェイ全短編は、スクリブナー社刊のフィンカ・ビヒア版短編全集の完訳です。全短編70編を、パリ時代、キー・ウェスト時代、キューバ時代の３つに分け、三分冊で提供します。この１はパリ時代、ヘミングウェイ20代に刊行された「われらの時代」「男だけの世界」の２つの短編集を収録します。
よく言われているように、ヘミングウェイのスタイルは、最初の本格的な作品集となった「われらの時代」で確立されています。それは美辞麗句を廃し、客観的事実を簡潔な無駄のない文章で表現することで、緊張感のあるストーリー展開を表現するものです。生と死、虚無感といった人物の感情を描ききって見せます。若干20代の若者でこれが為しえたとは驚きます。
後年、「パパ」と呼ばれ、男性的で父性的な印象の強いヘミングウェイですが、パリ時代の作品では「雨の中の猫」「白い像のような山並み」「贈り物のカナリア」など女性の心情をを繊細に描いた作品もあり、興味深い。名編「二つの心臓の大きな川」「殺し屋」「敗れざる者」「兵士の故郷」など味わい深い作品が目白押し。どれも短い作品なので、一言一句かみしめて味わって欲しい短編集です。高見浩氏の訳文も名訳に値するものと思います。20世紀アメリカ文学入門の書です。