偏愛記: ドストエフスキーをめぐる旅 (新潮文庫) の感想

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タイトル偏愛記: ドストエフスキーをめぐる旅 (新潮文庫)
発売日2013-05-27
製作者亀山 郁夫
販売元新潮社
JANコード9784101275314
カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 著者別 » か行の著者

購入者の感想

 著者の亀山郁夫さんは、ここ10年程ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」といった大作の平易な翻訳やドストエフスキーに関する作家論・作品論を多く著し、現在活躍中の第一人者である。本書において、著者はこの偉大な作家の足跡をたどり訪ねたロシアの各地や西欧の街等での折々の感興と、中学生時代の「罪と罰」初読以来50年間に及ぶドストエフスキー体験を、時間と空間を自由自在に飛び交いながら一話ごと断章的に語っている。(これを著者は「電文調の自伝」と称する。)
 ドストエフスキーの小説の根源にある「父殺し」と「二枚舌」については、作家の実人生に照らしてまた著者の家族関係や自身の潜在意識とも合わせて語っており、抽象概念は身近なものとなる。さらに30代の著者がソ連留学中にスパイ容疑で受けた6時間の尋問は作家のシベリア流刑8年と重なり、さながら私小説である。
 ドストエフスキーの時代を越えた予言性は、全共闘運動や連合赤軍、オウム真理教、9.11テロ、秋葉原事件等について著者のその時々の遭遇や行動と合わせて述べられており、1世紀後の日本に甦る。この辺りは、評者は著者より数歳年長だがほとんど同時進行の気分で、いろいろなことを思い出し懐かしかった。
 著者の芸術に対する関心は広く、ロシア文学では未来派詩人に関する専門書もあるようだし、日本文学では夏目漱石、大江健三郎、村上春樹、川上未映子等の小説に現われるドストエフスキーの影響を論じ、高村薫や平野啓一郎とはドストエフスキー体験を熱く談じている。また文学のみならずクラシック音楽や映画、絵画にも造詣が深そうで、これらが小説の読みを広く深いものにしていよう。
 著者のドストエフスキーに憑かれたような熱気に煽られ、評者もかって読みかかったが最後まで読めなかった「悪霊」に亀山訳で再挑戦したくなったし、大学時代に読了したはずの「罪と罰」も再読したくなった。

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