セカイからもっと近くに (現実から切り離された文学の諸問題) (キー・ライブラリー) の感想

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参照データ

タイトルセカイからもっと近くに (現実から切り離された文学の諸問題) (キー・ライブラリー)
発売日販売日未定
製作者東 浩紀
販売元東京創元社
JANコード9784488015367
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 評論・文学研究 » 文学理論

購入者の感想

「本書は、ひとことで言えば、想像力と現実が関係をもつことのむずかしさを主題とした本です」(p.1)。

まえがきで著者の東浩紀氏はこのように述べている。「むずかしさ」がキーポイントである。
と言っても、身構える必要はない。本書はサラリとした筆致で、とても読みやすく書かれているからだ(人によっては1時間ほどで読み終えてしまうのではないだろうか)。

本書は読みやすい。いや、読みやすすぎる。そこが唯一の難点だ、と言ったら言い過ぎだろうか。
これほど複雑な問題をすっきりと整理して書ききる著者の力量には脱帽するが、正直に言って、私は著者の言う「むずかしさ」をあまり感じることが出来なかった。
読後はむしろ、わかりやすさと妙な居心地の悪さが残った。
もっと詳しく、複雑な部分まで含めて論じてほしい!というのは、氏の才能を考えれば無い物ねだりでもないだろう(特に、第四章五節で唐突に出てくる「憑く女」のアイデアについて)。

私見だが、近年の東氏は、著作に対して寄せられる度重なる誤解や不当な批判に疲れ果て、過剰に防衛的な著述スタイルに変わってしまっていないだろうか。『ゲーム的リアリズムの誕生』(講談社現代新書, 2007)以降、その傾向が顕著であるように思える。
本書の読みやすさは、誤解を生みそうなアイデアや複雑なコンテクストをあらかじめ排除したところに成立している。わかりやすさを優先した結果なのだろう(そういう点で、今回の著作が「です・ます」調を採用しているのは象徴的だ)。

本書はそもそも、非常にねじれた読解方法を採用している。
セカイ系の困難という視点をもとに、エンターテイメント系作家を横断的に取り上げつつ、彼らの作品の中に近代文学の伝統的な諸問題(「家族」「恋愛」「性」など)を再発見してみせる、という読解だ。
セカイ系は新しい現実に対応した新しい問題を描く、というのならば話は単純だが、そうではない。
むしろ逆に、東氏が取り出す諸問題は驚くほど伝統的でかつ「古い」のである。

 日本の思想界が「文芸評論」というジャンルが推進されてきた時代から思うと、本書のような文芸評論書が出ること、そして著者が本書の冒頭から「自分の最後の文芸評論書」と位置づけていることは感慨深い。
 
 本書は新井素子(よく読んだ)、法月倫太郎(あまり読んだことがない)、押井守(大体見てる)、小松左京(主なものは読んだ)をセカイ系との関連から分析したもの。ラカン分析の「想像界」「現実界」「象徴界」を援用し、セカイ系の小説群を「想像界と現実界が短絡し、象徴界の描写を欠く」と定式化しています。そこに上記4作家の中にもセカイ系的要素を見出し、加えてセカイ系が超えられなかった限界をそれぞれの方法論で乗り越えて(乗り越えようと)していたことを論証していく。
 
 わかりやすく、面白かった。文学が社会から離れて久しく、筆者もその可能性に見切りをつけているようだが、エンターテイメントとして(だけ)でも今後も提供してくれればうれしい。(筆者に失礼な言い方かもしれないが)

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