有職故実(下) (講談社学術文庫) の感想

自信を持って太鼓判を押せる名著『有職故実』の下巻は、服飾、飲食、殿舎、調度と與車、甲冑と武具、武技、そして遊戯を網羅している。
内容としては、平安貴族の実生活を現実的に映し出すものとして、多くの方が上巻よりも寧ろこの下巻の方に興味を覚えるかもしれない。

例えば当時の貴族達はどのような服装をして、どのようなものを食し、また、どのような住宅に住んでいたのか…等、興味は尽きず、それを全て解き明かしてくれるのが本書である。
勿論、平安貴族のこうした側面について扱っている書物は多いので、それで充分に事は足りるが、総括的に、尚且つ詳細を知りたいと思うのであればやはり本書をお勧めしたい。

例えばの話だが、誰もが「蹴鞠」という遊戯は知っているだろう。
資料の上でも、また映像でも入って来るこの優雅な遊びについては既に理解していた気になっている。
だが「烏帽子の高さくらいに蹴るのが良い」とか「敢えて競技を中止する事を請鞠と言った」…とか、そんな事まで誰が知っていようか。
既に詳細な知識をお持ちの方は別として、一般的には意外にも知られていないような内容を次から次へと提供してくれるので実に興味深い。

勿論、これはほんの一例に過ぎないが、本書は首尾一貫してこのように全ての項目に対して事細かに、尚且つ解り易く解説をしてくれるのだ。
或る意味では最早「雑学」に近いものまでを含んでおり、こうした事が上巻とは一風違った趣を残しているのが下巻の魅力でもある。

因みに、上・下巻を通しての索引が付いているのもこの下巻の方であり、これはかなり有用なので是非とも活用して頂きたい。

尚、多くの方が興味を惹かれるであろう、服飾や武具・甲冑に関しては巻末に図版が掲載されているのでそれを参考にすると良いと思う。
但し、残念ながら唯一苦言を呈するならばこの図版だけではやや不十分なのも事実だ。
依って、服飾に関してより深く理解したいと思うならば解り易く図解した著書を他にもう一冊入手しておいた方が解り易いかもしれない。