博士の愛した数式 (新潮文庫) の感想

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参照データ

タイトル博士の愛した数式 (新潮文庫)
発売日販売日未定
製作者小川 洋子
販売元新潮社
JANコード9784101215235
カテゴリ文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » あ行の著者

購入者の感想

著者はどんな動機でこの小説を書いたのだろう?
ドラマティックではないが,最後までストーリーに引っ張られた。
博士の家政婦となった私(主人公)。64才の博士は1975年の自動車事故で記憶が自由でない(記憶が80分しか続かない)。数学の証明問題に日々を費やし,私には数学の美的な世界,素数の魅力を語る。私には息子ルートがいる。タイガースファン。実は博士も,江夏のいたターガースが好きだった。
私はしだいに素数の世界にはまる。博士は実生活に無頓着。身奇麗でないし、食べ方には品がないが,息子のルートにも私にもいたって優しい。3人は仲良くなる。
私が義姉の告口によって解雇されるが,博士の家政婦は誰も出来ないので復帰。球場でのタイガースの応援とその後の博士の発熱と発病,博士の野球カード・コレクションと数学論文,オイラーの公式の不可思議,話題が続く。
ついに記憶が壊れ,専門の医療施設に入った博士。私とルートは,定期的に彼を見舞う。ルートは教員試験に合格,中学の数学教員になる。数学・野球・人間の愛。
著者は何がきっかけでこんなに面白い小説を構想したのだろう?

この小説は記憶にまつわる物語だ。
記憶は執着することでうまれる。
執着には、誰かや何かを大切に思ったりする良いものと、憎んだりうらんだりする悪いものとがある。
そして良い執着からうまれる記憶をとくに、思い出と呼ぶのだと思う。
心ゆたかな人ほどたくさんの思い出を持ち、博士はたくさんの思い出を持つべき人として描かれる。
数学を愛し、子供を愛し、どんなささいな好意に対しても感謝と敬意を忘れない人。
けれど、博士の記憶は80分しか持たない。
博士と博士をとりまく人たちが、どんなに相手を大切に思いあっても、博士の記憶には残らない。
物語全体に漂う、切なくて、どうすることもできない感じは、ここから生まれてくるのだとおもう。
博士の記憶が失われるたび、大事なことに気づかされる。
誰かの記憶に残ること、何かを記憶するほど想うこと。
淡々とした日々の生活の中に見出せる大切なこと。
いつか人と共に記憶も消え去る切なさと共に、絶対的なものの存在を感じて、心がほっと落ち着くような物語だ。

記憶が80分しか持たない博士とそこに勤める家政婦とその息子。
たった3人の関係や博士の家という閉じられた空間であるはずの設定も、お互いの思いやりを描くことによって、数字のような無限に広がる可能性を持つものに描かれている。
数字以外には興味の無いはずの博士は子どもには無償の愛を注ぐ。それは子どもには数字と同じく無限の可能性が秘められているからに違いない。
小川洋子の作品は一見無機質に見えるけれども、読後にはいつもぬくもりが残る。今回は特に素晴らしい傑作だと感じた。絶対にオススメ!

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新潮社から発売された小川 洋子の博士の愛した数式 (新潮文庫)(JAN:9784101215235)の感想と評価
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